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沢木鈴音の章 第一章 一節〜
沢木鈴音の章 第一章 二節〜
沢木鈴音の章 第一章 三節〜
沢木鈴音の章 第一章 四節〜

沢木鈴音の章 第一章 五節〜
沢木鈴音の章 第一章 六節〜
沢木鈴音の章 第一章 七節〜

沢木鈴音の章 第二章 一節〜
沢木鈴音の章 第二章 二節〜





新城聡史の章 第一章 一節〜
新城聡史の章 第一章 二節〜
新城聡史の章 第一章 三節〜
新城聡史の章 第一章 四節〜
新城聡史の章 第一章 五節〜


新城聡史の章 第二章 一節〜
新城聡史の章 第二章 二節〜


凪 りみの章 第一章 一節〜
凪 りみの章 第一章 二節〜
凪 りみの章 第一章 三節〜







 あの人は、僕があの人の事を想ってるって事……知らないから……
 あの人は、僕が好きなのは、あの人の後輩だと…… そう思ってるから……
 まぁ、そう思わせたのは僕なのだけど


 あいつは、私の後輩に想いを寄せている
 そう公言している
 あいつは、私の事を頼りになる姉貴なんて、のたまっているから……
 私は、あいつを好きだなんて言えないんだ

 誰にも
「いってきま〜す」
 慌しく玄関を飛び出すと、途端、朝の忙しない空気が鈴音を包みこんだ。
 バスを待つ人達の長い列も、朝のラッシュのざわめきも、慣れきった朝の光景だけど、未だにその忙しない空気に、おいでおいでされるように中に引きずり込まれると、うんざりしてしまう。
 沢木鈴音、二十八歳。一応、女――ではあるけれど、かわいいねなんて生まれて此の方、一度も言われたことはない。
 ううん。少なくとも赤ん坊の頃には言われてたかな、流石にね。
 かわいいって言われない赤ん坊っていうのも、また余りにも居た堪れないしね。
 周りからの評価は、大概、頼りになる・さばさばしてる・かっこいい(女だっつ〜の)      
 そんな感じかな。
 別に、かわいいなんて柄じゃないのは自分でも分かってるし、それを期待してるわけでもない。だけど、時にはそう言って欲しいって思うとき、女なら誰でもあるじゃない?
 昨日もまた、あいつに「さすが先輩、頼りになるなぁ」なんて暢気に拍手されて……
 あいつは褒めてるつもりなんだろうけど、ね。
 そういう台詞……言われなれてる筈なんだけど、そんな一言を、らしくなくずっと引きずっちゃって昨日はなかなか眠れなかった。
そのせいで、慌てて駅に向かって走ってるってわけ。

走ったかいあって、ホームに入ったと同時に電車が滑り込んできた。ぎりぎりセーフってとこか。
 そして、またいつものように、押し合いへし合い、電車の中になだれ込んだ。
 おしくらまんじゅうしながら会社に向かう電車の中、ふといつもは感じない視線を感じた。
 思わず目をあげると……誰だろう
 少し離れた所にいる男性が、じっとこちらを見ていた。
 揺れる電車の中で、その視線は決して揺らぐ事は無く、私の体を貫き、心臓までもを鷲掴みにされているようで……
 背筋をわけの分からない物体が這い上がってきて、私は、思わず身震いすると下を向いた。
 それから駅につくまで、怖くて顔をあげる事すら出来なかった。
 クーラーががんがんきいているというのに、変な汗が背中を滴り落ちる。
『何かが見ている』
 見ているのは、確かに少し離れたところにいる男性なのだけど、その視線は人を感じさせないもののような気がして……。
 男の目を思い出すと、また汗が流れ落ちる。
『怖い 怖い 怖い 怖い 怖い…………』
 気を緩めると、まるごと飲み込まれてしまいそうだ。
 前に立つおじさんの革靴をじっと睨み付け、カバンをぎゅっと抱え込む事で、かろうじて意識を保つ。
 どれくらいの時間が経ったのだろう。
『もう駄目……』体中の血が全て地面に吸い込まれてしまったかのようだ。自然、体の力も抜け、気を失いかけた時
「大阪〜大阪〜」
 助け舟のようにアナウンスが耳に滑り込んできた。
 いつもの何十倍もの時間をかけて、この駅にたどり着いたような気がする。
 だけど、ともかく助かった……未だに視線は感じるけれど、流石に電車を降りてまで追ってはこないだろう。
 そう考えながらも、内心、追ってくるかもしれない、追ってきたらどうしよう
 そんな不安が頭をうずまき、気だけが逸る。